研究概要 |
本研究は、SPring-8 BL25SUに設置した電磁石軟X線MCD装置に本補助金にて追加整備した蛍光収量法、および、透過法によるMCD測定機能を用いて進められた。東北大(角田氏)と共同研究で進めた巨大交換磁気異方性を有するMn3Ir/Co-Fe積層膜のMCD実験では、これまで信じられてきたH.Ohldagらによる界面無反転不対スピンによる交換磁気異方性の起源(PRL91,(2003),17203)を否定する新たな成果を得た(APL89,(2006),172501)。この成果は、本補助金にて検討整備した透過測定のノウハウが最大限に活かされ、H.Obldagが用いた全電子収量法に比べて遥かに精度の高い測定を実現したことによって得られたと位置づけられる。また、究極のナノ磁気物質である希土類内包フラーレンの磁気特性解明のためのMCD実験では、試料温度センサーと実際の試料位置が離れているために生じる試料温度の見積もり誤差が大きかった問題を解消するために、Gd_2O_3粉末を用いた温度校正法を開発し、温度誤差0.3K以内で試料温度を決定することが可能になった。この温度校正法によって、研究初期に得られた磁気モーメント温度変化の異常がアーティファクトであることが判明すると同時に、内包希土類原子の数や元素による磁性の違いについて正確な議論が可能となった。これらの研究は、SPring-8の共同利用実験として、(1)蛍光法軟X線収量によるMCD測定法の開発(課題番号2006A1401-NSc-np)、(2)カーボンナノチューブ内における希土類金属内包フラーレンの磁化挙動(課題番号2006A1620-NSc-np),(3)強磁性/反強磁性積層膜の界面誘起非補償スピン成分と交換磁気異方性との相関(課題番号2006B1556-NSc-np-Na)等として進められた。
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