研究概要 |
低次元磁性体の研究は新奇な量子状態が期待されることから古くから大きな興味をもたれている.実験的に低次元物質を合成するには従来は通常のセラミック法で行われてきたが,昨今の精力的なデータベース探索の末,候補物質は出尽くした感があり実験的な研究はここ数年縮小傾向にあった.本研究では,低温合成法の一種であるイオン交換法を世界にさきかげて採用し,低次元磁性体を合成することを試みた.その結果,数々の新しい低次元磁性体を合成することに成功した.合成は,まず母体として非磁性層状ペロブスカイト酸化物を用いる.この母体に遷移金属ハライドを300℃程度の低温で真空熱処理することによってアルカリイオンが「遷移金属-ハロゲン」格子に置き換わった(イオン交換した)結果,ペロブスカイトブロックの層間に新たに磁性格子を構築することができた.この研究を通じイオン交換は低次元磁性体の開発にたいし大きな利点があることを示した.(1)準安定相であるため,状態図の枠組みをこえた新しい物質を合成できる,(2)非磁性体からでも磁性体を合成できる,(3)インターカレーションとは異なり定比の化学であるため極めて微量の不純物に大きく影響をうける低次元磁性体の研究にも耐えうる試料が作成可能である,(4)母体のトポロジイーが娘体でも保たれるため,合理的な構造設計が可能であるなどである.我々が合成した物質の一つ(CuCl)LaNb207は低温でもスピンが秩序化しないスピン液体といわれる極めて珍しい状態が観測された.またClをBrに置き換えただけの(CuBr)LaNb207では通常の磁気秩序状態が観測されるなど,物質の構成元素をかえることによって磁性を大きくそして系統的に変化させることがわかりつつあるなど大きな成果を挙げるとともに,今後研究が大きく発展していく見通しをたてることができた.
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