本年度はまず、薄型セル内での周期静磁場を用いたルビジウム原子の内部状態の共鳴励起実験をさらに詳細にすすめ、区切りをつけた。周期磁場内を原子が運動するときに、その周期を横切る周波数に相当する内部状態間の共鳴的な遷移がおこるという、研究のアイディアの一番おおもと部分の実証は終わり、詳細をさらにつめ、論文として公表した。各種国際会議でも発表した。その後、ほぼ同じセットアップで、周期静磁場と振動磁場を組み合わせた新しい共鳴励起の実験を行い、これに成功した。これは、両者のそれぞれの特徴(前者は原子の速度に強く依存し、運動状態も大きく制御できる可能性がある。後者は原子の速度にはほとんど依存せず、運動状態もほぼ変化しない)をうまく利用した新しい原子の分光や制御方法につながる可能性があると考えている。現在、得られたデータをもとにして、数値計算によるシミュレーションでその可能性を示すことを計画している。 実験の当初からの大きな目標であった、コヒーレントな共鳴励起の実証にも取り組んだ。これも薄型セルを用いて押し進めた。検出装置の高感度化が鍵であり、その改良に努め、大幅な改善を得た。しかし、残念ながら、コヒーレントな共鳴励起の明白な実証には至ることができなかった。これは、薄型セルを用いる限り逃れられないコヒーレンスの緩和の影響を、予想通りには小さくできなかったためであると考えている。 薄型セルの実験は大きな成功を収めたが、その限界も見えてきた。そこで、やや計画からは遅れたが、薄型セルの実験を進める一方で真空チェンバー内のビームを使う実験の準備も進めた。装置の設計を行い、物品を購入し、その組立が進んでいるところである。
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