全球規模モデリングでは、南極周囲の深層水形成の再現性向上を目指したモデル実験・開発を行った。南極周囲の深層水形成は本来、ウエッデル海やロス海の奥の沿岸ポリニヤで形成される高密度水が、大陸棚を通って大陸斜面を下降することによる。しかし、従来のモデルでは深層水形成が外洋で生じる傾向にある。全球規模モデルにおいて海底付近の高密度水流動は海底境界層パラメタリゼーションで扱われるが、局所的高解像度モデルを用いた大陸棚・大陸斜面上の高密度水の挙動を把握するための数値実験結果をもとに、海底斜面や密度勾配に依存した形の新しいパラメタリゼーションを開発中である。領域規模モデリングでは、昨年度に引き続きラブラドル海の深層水形成領域シミュレーションを実行した。境界条件の見直しや高解像度化を通して深層水形成の再現性を以前よりも高めることができており、深層水形成をコントロールするプロセスを定量的に把握するための熱・淡水輸送解析を遂行中である。微小プロセス規模モデリングでは、複雑な海底地形を効率よく取り扱うことができる非静水圧モデルを開発した。このモデルをウェッデル海の状況を模した設定に適用した実験を遂行中であり、高密度水が大陸棚から大陸斜面へと下降する過程において海底地形が果たす役割を今後明らかにしていく。また、大陸斜面を下降する高密度水が各種力学的不安定を通して周囲の水と混合していくエントレインメント過程を適切に評価するためのLESモデルを開発した。次年度にはこのモデルによる実験結果とあわせて、沿岸域で生じる深層水形成における重要プロセスの定量的把握を行う。
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