本研究では、メタロセンを構成要素とする新しい分子性固体の開発を主眼とする。今年度は、以下の3項目に関して検討を行った。 (1)アルキルフェロセン-Ni(mnt)_2錯体の合成と物性 ここではNi(mnt)_2とアルキルフェロセンからなる4種類の錯体を合成し、その分子間相互作用と集積構造の相関について検討した。これらの錯体は全て1:1のD:A比を持ち、アクセプターカラムの周りを6個のドナーが取り囲んだ特徴的な六角ハニカム状の自己集積構造を形成していた。このうち一個の錯体では、Cp-Cp相互作用によるドナーの二量化が観測された。磁化率、比熱の解析から、ダイマー内に2J=-5K程度の反強磁性相互作用が働いていることがわかった。 (2)アルキルフェロセン-TCNQ錯体の探索的合成 アルキルフェロセン誘導体とTCNQ誘導体の多数の組み合わせについて錯体合成を試みた結果、9種類の電荷移動錯体が得られたため、その電荷移動度、磁気物性、集積構造の評価を行った。この結果を80年代の関連研究と照らし合わせることにより、フェロセン系電荷移動固体の電子状態に関する統一的な知見を得ることが出来た。 (3)ヘテロアリールフェロセンの開発とその錯体合成 新規フェロセン誘導体の開発の一環として、ジピリジルフェロセン類縁体を合成した。それらを用いた金属錯体の合成を試みた結果、銀塩との組み合わせで多数の環状ジフェロセン錯体が得られ、結晶構造解析の結果、対アニオンの選択によって分子形状の系統的制御が可能であることがわかった。
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