超高速分光による分子ダイナミクスの研究はこれまで主として均一な系に対して行われてきたが、現実的な系は高度に不均一である場合が多い。従って、微小な領域または不均一な環境に存在する分子の励起状態ダイナミクスを位置選択的に観測することが重要である。このような測定には高い時間分解能を持つ分光手段と高い空間分解能を持つ顕微技術を融合させた時間分解顕微分光法が有効な手段となる。時間分解分光と顕微測定を組み合わせた研究はこれまでにも多くあるが、蛍光顕微分光においてはフェムト秒領域の時間分解測定は行われていなかった。我々は蛍光アップコンバージョン法と共焦点光学顕微鏡を組み合わせた新しい顕微鏡(フェムト秒蛍光アップコンバージョン顕微鏡)を開発し、ナノメートルの空間分解能とフェムト秒の時間分解能を蛍光顕微測定において初めて同時に実現した。この顕微鏡を二次元イメージの作成に応用しフェムト秒蛍光ダイナミクスによる試料のイメージ化に成功した。 また光学顕微鏡と超高速蛍光分光手法の一つである光カーゲートを組み合わせた顕微鏡を開発した。これは試料や励起光のスキャンなしに超高速蛍光顕微イメージ(フェムト秒ダイナミクスイメージ)の作成が可能な新しい蛍光顕微鏡(非走査型光カーゲート顕微鏡)である。これを用いて有機分子微結晶の超高速蛍光イメージの作成に成功した。
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