研究概要 |
DNAとして遺伝子工学の礎である環状、超らせん構造で特徴づけられるプラスミドDNAを選択し、特に生体反応の場であり、かつDNAの剛直性が発現するナノスケールでのDNAの折りたたみに焦点を当てた。プラスミドDNAの凝縮はそのトポロジカルな制約により直鎖状DNAの凝縮とは異なる複雑な経路をとることが予想され、それ故これまでの知見は凝縮形態観察の域を出ていない。プラスミドDNAの凝縮過程の理解は、トポロジーの制約の中でいかに剛直な鎖を折りたたむか、トポロジーがなぜ存在するのかという科学的・生物学的興味とともに、DNAを凝縮状態で送達し、目的細胞へ遺伝子を導入、発現させるという遺伝子送達技術の確立のためにも非常に重要な命題である。単一のプラスミドDNA凝縮を取り出すため、カチオン性セグメントと親水性セグメントからなるブロック共重合体poly(ethylene glycol)-b-poly(L-lysine),PEG-PLL(PEG:Mw12000,PLL:DP15、20,40,70)を用い、両者の自己会合により形成される高分子ミセルをDNA凝縮の観測系として用いた。これによりこれまで多分子間相互作用ゆえに扱うことが出来なかったDNA凝縮に対して、化学量論比を含めた広い電荷比にわたって詳細に観察可能とする系を確立した。これを用いプラスミドDNAの凝縮を詳細に検討し以下の知見を得た。特定の凝縮度(化学量論比近傍)においてプラスミドDNAの長さ、種類とは関係なくDNAの規則的な位置に二重らせんの解離が誘起されることを明らかにし、DNAの凝縮機構に普遍的な法則があることを見出した。一方においては凝縮度の高いプラスミドDNAの二重らせん構造は非特異的な箇所において不安定化されていることを見出した。DNAの凝縮形態はポリカチオンとDNAとの電荷比、ポリカチオン鎖長によりロッド状、トロイド状、球状と制御できることを見出した。さらに、これらの形態をとるメカニズムを解析し、一連の折り畳み凝縮機序で説明できることを示した。
|