本研究は"光応答性部位を持つアキラルなアモルファス高分子材料の薄膜において分子のらせん状3次元配列が光誘起される新現象について探求すること"、ならびに、"その光学的応用を検討すること"を目的としている。 本年度は、薄膜中に光形成されるらせん構造をIn Situ観測するためのポンプ-プローブ精密偏光光学系の構築を行った。全てのストークスパラメータのIn Situ自動測定が可能となり、光構造化過程のダイナミクス追跡が可能になった。その結果、他の材料では達成されていない極めて大きな光誘起光学回転値(42°/μm以上)が発現するプロセスの検討をより詳細に行うことができた。このことは分子の巨視的な構造化のメカニズムを考察するための大きな一歩になった。 一方では、光応答性部位(ヘテロ環アゾ化合物)と大きな複屈折部位(固有複屈折0.6以上のπ共役化合物)を持つ共重合体について新規材料の合成に着手し、各セグメントの協同運動に基づく大きな光誘起旋光能や円二色性の発現を狙った。その結果、各セグメントの協同運動は光応答性部位と複屈折部位の双極子モーメントや化学構造のみならず、相溶性や固体中での運動性(立体障害性)にも大きく左右されることが明らかとなった。本年度購入した示差熱熱量計は共重合体の熱特性と光機能の関係を明らかにすることに大いに役立ち、現象機構解明の一助となった。このことは次年度も引き続き進める新規高性能材料の探索に良い指針を与える結果であった。 さらに、エリプソメトリによって導かれた材料のトランスフォーメーション行列に基づいて、分子の光配向と構造化を簡便に記述する近似的理論モデルをまとめ、新規材料の物性評価・解析に役立てた。 これらの結果は、4報の国際誌、1編の解説(図書)、1件の特許出願(外国PCT)、5件の国際会議発表(うち3件は依頼・招待講演)として積極的に発信した。(795字)
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