本年度はブロック共重合体単分子膜のミクロ相分離構造内におけるブロック高分子鎖のコンホメーション評価を行った。ポリイソブチルメタクリレート(PiBMA)およびポリオクタデシルメタクリレート(PODMA)から成るブロック共重合体、さらにそれぞれのホモポリマー鎖をリビングラジカル重合法により合成した。近接場光学顕微鏡(SNOM)観察のためにPiBMAおよびPODMA鎖はペリレンあるいはペリレンジイミド色素によって蛍光ラベルした。得られた高分子試料をLangmuir-Blodgett法によって単分子膜とし、SNOM観察を行った。 高分子単分子膜中における単一高分子鎖の蛍光SNOM観察にあたって、スピンキャスト膜中の鎖と比較して信号強度が著しく低下していることが判明した。検討の結果、単分子膜では色素分子が膜最表面に存在するために雰囲気中の酸素分子による消光の影響を強く受けることが示唆された。そこで試料単分子膜上にポリビニルアルコールを5-10nm積層することで消光が抑えられ、信号強度が数倍増強されることが分かった。 SNOMによる直接観察によりミクロ相分離構造内のPiBMAブロック鎖のコンホメーションについて評価した。個々の鎖について観察された形態に対して楕円近似を行い、その長軸および短軸の長さを調べた。その結果PiBMAブロック鎖は、ホモポリマー鎖と比較して二倍以上伸張した形態をとっていることが明らかになった。ブロック共重合体のミクロ相分離においてはすべての鎖が相分離界面に存在しているため、鎖間の反発により相分離界面平行方向の自由度が制限されている。これに加え、単分子膜では高さ方向の自由度を持たず、その結果、単分子膜のミクロ相分離構造内では鎖は相分離界面法線方向の一次元の自由度しか持たない。そのためPiBMAブロック鎖は著しく伸張した形態を有しているものと考えられる。このように空間的に制限されたブロック共重合体鎖の伸張したコンホメーションが、単一高分子鎖レベルの実空間観察によって明らかとなった。
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