本研究では、微細加工電極を用いて、1本鎖からナノファイバー程度の太さ1〜10nmスケールの導電性高分子における1本レベルのFET特性を詳細に調べ、特にエンハンスト型のFET特性を得ることを目指している。 本年度はまず、これまでに開発を進めてきた微細電極間に導電性高分子ポリチオフェンのナノウィスカー構造(長さ約1μm、太さ10nm)を配し、そのFET特性の測定を目指した。原子間力顕微鏡(AFM)を用いてナノファイバー1本が実際に電極間を橋渡ししている様子を観察しながら、導電率測定を行い、未ドープにおいても半導体クラスの導電率が観測されるのを確認した。さらに背面シリコンをバックゲートとしてナノファイバー1本のFET特性の測定を行った。その結果、p型に特有な負のゲート電圧に対するエンハンストなソース-ドレイン電流を観測した。オン-オフ比はおおよそ30000程度となり、キャリアの移動度は室温において0.01cm^2/Vs程度という結果が得られた。移動度の温度依存性は室温から30K程度までの温度範囲でおよそ熱活性型であったことからキャリアの移動機構はホッピングタイプと考えられる。 現在、本年度新規に導入したz方向にもクローズドループフィードバック機構を有する原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、AFM探針と背面シリコン間に電圧を印加するダブルゲート方式のFET測定を行う準備を進行している。この測定を実現することにより、ゲート電界が分子に集中し、真の1本の導電性高分子ナノワイヤーが示すFET特性を観測することができることが期待される。 また、導電性高分子ナノウィスカーに加えてポリアニリンとシクロデキストリンチューブからなる分子被覆導線、DNAなどの測定も行っている。これらのサンプルは無ドープでは極めて低い電気伝導しか示さず、またゲート電圧を印加しても十分なエンハンス効果を観測することができなかったため、ドーピング濃度の検討を行っている。
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