高エネルギー物理学分野における最重要課題の一つは、「超対称粒子」の発見であるが、この粒子の形成には、高効率偏極電子源の実現が必要不可欠である。偏極電子源の重要な性能として「高い偏極度」と「高い量子効率」があるが、現在の量子効率は0.5%と極めて低い。これは、歪みによる結晶品質や構造そのものの問題による。本研究では、新型構造の提案より偏極電子源の高効率化を図る。最終的目標として、偏極度90%以上、量子効率を従来の20〜50倍の偏極電子源を目指している。本年度に関しては以下の2つの知見が得られた。 ・従来、GaAs/GaAsP超格子構造を利用した偏極電子源の開発を行っており、これでは90%以上の偏極度をすでに達成していた。一方、量子効率は0.5%程度小さいものになっていた。本研究では、歪み補償構造とグレーディッドバッファ層の採用により超格子構造の結晶性を改善し、量子効率の改善を行った。これらの構造を採用することで、転位密度の低減、超格子構造の周期性の向上を実現し、量子効率は最高で5%近くまで達成することができた。その一方、偏極度が60%程度に低下するという問題が新たに浮上した。現在、この問題に関しては、超格子構造の周期長を最適花することで改善されることを、バンド構造計算より明らかにしている。 ・上述の電子源をさらに高効率化するために、量子構造を駆使した新構造を提案しているが、その実現のためには、量子ドット構造の位置制御技術が必要となる。そのため、選択成長による技術確立を行った。本年度は、選択成長メカニズムの解明とそれに基づいた構造制御法の確立、さらに、選択成長を利用した液滴エピタキシー法による量子構造のサイズ・密度制御法の確立を行なった。
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