強磁場中偏極準安定原子散乱装置の開発が本研究の目的であるが、試料への磁場印可に鉄心型電磁石、超伝導磁石のいずれを利用するか最初に決定する必要がある。そこで本年度は、小型鉄心型電磁石を既存の偏極原子ビームと組み合わせ、到達磁場1.8kOeの磁場中偏極原子ビーム散乱装置を試作するとともに、鉄心型電磁石に関する問題点を検討した。その結果、超伝導マグネット導入を決定した。また、導入した超伝導マグネットからの漏洩磁界対策を検討した。 小型鉄心型電磁石を用いた研究で以下の点が明らかになった。 (1)入射原子ビームをポールピース同軸の貫通穴を通して試料に照射する場合、ビーム脱偏極を防ぐために貫通穴内部にソレノイドを挿入し、定義磁界を貫通穴内部に印可する必要がある。 (2)鉄心を用いる場合、磁気履歴のため低磁界領域でのビーム偏極制御が難しい。 (3)試料磁化用マグネットからの漏洩磁界は、ビーム偏極や偏極反転効率に大きく影響するので、漏洩磁場の精密なcancellationが必要になる。 到達磁場1-2テスラの大型鉄心型電磁石を導入する場合、上記(1)(2)に加え、大型ポールピースの貫通穴通過中にビーム強度が減衰する可能性がある点、ポールピース間ギャップが小さく試料マニピュレータのサイズを小さくとる必要がある点も問題になる。これらを踏まえ、到達磁場も試料空間も大きくとれる(中心磁場5テスラ、ボア径150mm)超伝導磁石を設計し導入した。またビームライン上スピン反転器位置での超伝導マグネットからの漏洩磁場を押さえるため、3重磁気シールドを試作した。本磁気シールドを用いることにより、試料位置で5テスラの磁場印可時、漏洩磁界は50mG程度にシールドできることを確認した。これにより、コイルによるcancellationあるいはシールド追加によりスピン反転可能という見通しを得た。
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