研究概要 |
騒音を音で制御するアクティブノイズコントロールは,音環境の改善を目的にさまざま用途で使用されつつある.しかしながら,従来のアクティブノイズコントロールでは二次経路の特性が変動すると制御不能になるという致命的な問題点を有していた.よって,温度や風などの環境変化はもちろん,誤差マイクロホンの移動などの物理的変化にはまったく対応できず,騒音を低減する空間(消音空間)は完全に固定され,人間がその空間に入らなければならないという非常に使い勝手の悪いシステムであった.このような問題点に対して,研究代表者は二次経路の変動に対して完全にロバストな新しいアクティブノイズコントロールシステムを既に提案している.そこで,その性質を利用すれば,耳元に常に消音空間を作ることができ,このシステムを装着した人は静かな音環境を享受できるだけでなく自由に移動もできる.さらに同様の原理は音場再現に適用可能であるため,本システムを適用すれば自然な状態でかつ自由に移動しながらも3D音響を体験できる.このような背景の下,本研究では騒音・音場空間を自由に移動できる新しいアクティブコントロールシステムの開発ならびにその実現を目指す.本年度はこれまで研究を進めてきた新しいアクティブノイズコントロールシステムを多チャネル化するとともに目的である耳元で常に消音するシステムのプロトタイプシステムの構築を行った. 具体的には,耳元で常に消音するためにマイクロホンを耳元に設置するための機材を設計・試作し,簡単な構成である制御音源2つ,観測マイクロホン2つの構成をDSPスタータキットで構成した.実験のポイントとしては,どの程度の移動に耐えられるのか,消音はどの範囲まで可能であるのかなどを,制御音源の配置も考えながら検討を行った.また,あらゆる配置での音響特性を記録し,シミュレーションにおいても解析した.さらに,より複雑な構成である制御音源3つ以上,観測マイクロホン4つ以上の構成におけるすべての音響経路特性の測定を行い,コンピュータシミュレーションによりどの程度の消音効果もしくは音場再生効果があるのかを検討した.以上の検討の結果、概ね良好な結果が得られ、関連学会において成果を公表した。
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