研究概要 |
近年,高機能マイクロマシン実現や情報機器デバイス実装のためのマイクロマニピュレーション技術への需要が高まっている.一般に,マイクロメートルスケールの微小物体は他の物体への凝着が起こりやすく,その凝着現象を制御するためには,微小物体に電界をかけることによって発生する静電力を制御することが有効であると認識されるようになってきている.そこで本研究では,「静電マイクロマニピュレーションにおいて,電子線照射による電子注入等の方法により対象物を予め帯電させ,プローブ印加電圧を制御することによって,誘電体を自由にマニピュレーションする手法を確立する」ことを目的とする. 今年度は,走査型電子顕微鏡やその真空チャンバーに対応した誘電体静電マイクロマニピュレーションシステムを用いて,微小誘電体が電子ビーム照射を受ける際にどの程度帯電するのかを理論・実験の両面から検討した.結果,微小物体における帯電のモデルは,入射電子(電子線),二次電子,放電により放出する電子,各々に対応する電流量を項に含む微分方程式で表現されることがわかった.モデルの妥当性は,電子顕微鏡による観察を通して,さまざまな材料からなる微小粒子の帯電現象を比較検討することによって検証された. その結果,帯電には二つのモード(帯電量が最終的に一定に収束するモードと"理論上"発散するモーと)があり,そのモードは微小物体の材料物性と電子線の加速電圧に依存する二次電子放出量によって決まることがわかった.また,微小球の径が10マイクロメートル以下の場合,帯電モデルには上記の項に加えて,物体を透過する電子の項を考慮することが不可欠であることも明らかになった.これらの知見から「電子顕微鏡下の静電マイクロマニピュレーションには,加速電圧を適切に選択することが非常に重要な要素である」という結論が導かれた.
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