研究概要 |
本年度において得られた成果は,以下に列挙される. 1.実環境から促進環境を含む,任意の温湿度ならびに二酸化炭素濃度に対応可能な炭酸化モデルの高度化を図った.具体的には,従来のモデルで考慮していた水酸化カルシウムの反応系の他に,C-S-H水和物の炭酸化反応をモデルに組み込んだ.さらに,水和物の炭酸化前後の質量・体積変化を各々の反応に遡って定式化し,既存の空隙構造形成モデルに組み込んだ.また,実構造物の劣化を予測するためには,構造内部の品質を同定する必要がある.実際に構造物から採取した供試体を用いて化学的な分析を行い,単位水量,セメント量,骨材量を推定した.これらの情報をモデルに与えることで,概ね現象を予測できることを示した. 2.細孔内の熱力学状態と力学挙動を直結するコンクリートの複合構成モデルの高度化を図った.本研究項目においても,任意の温湿度履歴に対応可能(実際の環境に適用可能)とすることが眼目である.具体的には,数日〜数十年の異なる時間スケールで卓越する弾性,粘弾性,粘塑性,塑性変形モデルを,種々の温度・湿度履歴に対して検証し,モデルの高精度化を図ったものである.さらに本モデルを用いて,実際の道路高架橋で報告された若材齢のひび割れ発生状況を評価することに成功し,ひび割れ損傷に関する機構解明に貢献した. 3.セメント系複合材料のみならずベントナイトを含む多孔体中の塩化物・カルシウムイオン移動・平衡モデルを導入した.移動モデルは空隙構造に起因する屈曲度と収れん度を考慮し,またカルシウム平衡モデルについては水和モデルと直結することで,水和度に応じて変化するモデルを採用している.また塩化物平衡モデル(固定化モデル)は実験式を用いた.ここでも移動・平衡モデルは温湿度に対して可変とし,任意の環境条件に適用可能なものである.
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