研究概要 |
昨年のメルトスピン実験と同様,産業利用されている急冷凝固プロセスに液滴を冷却基板に接触させて急速凝固させるスプラットクエンチプロセスがある.基板に接触した液滴は,凝固と同時に基板上での変形を伴うため,液滴/基板界面の冷却速度に分布が存在すると考えられる.また,液滴は冷却基板接触時に大きく過冷していることが経験的に知られている.この基板接触時の過冷度と冷却速度が多層系での相選択を可能にするが,過冷度と冷却速度に関する定量的な報告はない.一般的に冷却基板に熱伝導率の良い銅が用いるが,不透明なため液滴/基板界面の観察が困難なことに起因する.ここで,Cuと熱伝導率が同じオーダーであり,1.1ミクロン以上の波長を透過する性質を持つSiを基板に用いることで,赤外カメラで液滴/基板界面のその場観察が可能となる.試料には大きな過冷度を持つY_3Al_5O_<12>(YAG)を選択した.今年度は,si基板と赤外カメラを用いて液滴/基板界面の直接観察により冷却過程を明確にすることを目的とした. 144K過冷した液滴が基板に接触した場合,基板上に拡がりながらリカレッセンスを示して凝固した.中心部においてリカレッセンスは確認できなかったが,これは赤外カメラの時間分解能の限界に起因するものと考えられる.また液滴/基板界面での冷却速度分布は,液滴の初期半径の範囲(R=r_0)内で最大となり,同心円状の分布が存在することが分かった.この分布は液滴の基板上での変形挙動と良く一致している.実験で得られた基板接触時の液滴温度とリカレッセンス後の液滴温度の関係から,基板接触時の過冷度の増加に伴い融点から復熱温度が減少することがわかった.この挙動は本研究にて始めて実証されたものであり,一般に融点の低い準安定相が再融解することなく凍結されることを意味しており,急冷の有効性を示すものといえる.
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