ゲルは高分子のとる形態のひとつである。架橋構造の存在により、固体であるが内部に大量の溶媒(水等)を包含することが出来る。この為、外部水相環境から物質を取り込むという機能に於いて特性が発揮される。本研究では、ゲル系のその特性を活用し、水性廃液中の有毒物質であるフェノールをゲル内へ吸着除去する方法論を確立し、工業的技術として実用的に利用可能な水準まで具体化することを目的とする。本年度は特に、両親媒性のゲルであるイソプロピルアクリルアミド並びにヂメチルアクリルアミドを吸着媒体とし、その構造、吸着性能、熱的耐久性、化学的耐久性の見地から基礎的な検討を行なった。 塩基性雰囲気で燐酸エステルの一種である燐酸トリブチル(以下TBP)を、ゲルの主鎖を構成するモノマー種と混合して重合を行い、ゲル内にTBPを固定化することが出来た。TBPはフェノールに対して特異的に親和性の高い物質である。このため、TBPが固定化されたハイドロゲルは顕著なフェノールの吸着能を示した。吸着能の指標としては平衡分配比を用いた。結果、平衡分配比は最適条件下では100弱になった。これは、従来のTBPによる液液溶媒抽出法の性能に匹敵する値である。ゲル中にTBPを固定化することにより、従来の液液抽出法と比較して、TBPのハンドリング性が著しく改善された。ハンドリング性の改善は本課題の主要テーマのひとつであったので、この点において本年度成果を挙げる事が出来た。 環境技術としての将来性を考えると、ゲルの再利用の可能性は重要な点である。これには、一度吸着したフェノールをゲルから脱離させる必要が有る。フェノールは酸性有機化合物であるため、塩基性雰囲気においてイオン化されて遊離することが期待された。このため、外部に塩基性水相を配置して、ゲル内部に吸着されたフェノールを遊離させることを試みた。pH値が10よりも大きな領域でフエノールは水相側へ遊離した。すなわち、脱離(ストリッピング)プロセスの可能性が示された。なお、ストリッピングは塩基条件下で行われるので、ゲルを塩基性雰囲気でも耐久性のあるものにする必要がある。この点については次年度の研究課題とするべきところである。
|