ハイドロゲルを固定化媒体に用いた有害有機酸の水からの除去の研究を行った。除去用の吸着種としては廉価な燐酸エステル種である燐酸トリブチルを用いた。燐酸トリブチルは疎水性であるため、固定化媒体のハイドロゲルとしてはイソブチルメタクリレートが適切であることがわかった。従来アクリルアミド系のゲルを固定化媒体として採用していたが、これをイソブチルメタクリレートに切り換えることにより燐酸トリブチルの固定化量を3倍程度まで増加させることが出来た。この結果有機酸、特にもっとも生態毒性が強いフェノールの被固定化量を増大させることができ、ほぼそれに比例してフェノールの吸着除去能力を増進することができた。具体的には、吸着平衡の分配比を200-300程度まで増加させることができた。これは従来最も優れた方法と考えられてきた液液溶媒抽出法での平衡分配比の3倍程度である。すなわち、除去のために加える吸着剤の所要体積分率を従来の三分の一程度まで減らすことができることを意味する。さらにこれらのイソブチルメタクリレートにポリヴィニルアルコールやアルギン酸などの無害ゲルの薄層コーティングを施すことによりゲル材の機械的強度を革新的に向上させることに成功した。これにより塩基環境中での脱離操作が可能になった。すなわち、吸着材ゲルを繰り返して使用することができるようになった。これは本系を実用に供するときに非常に有利な点である。また外部水相のフェノール濃度を時系列で測定すると、これが古典的な拡散方程式の解形式に一致することを示せた。データフィッティングによりゲル中での有害物質の分子拡散係数を求めることができた。この値は水相中の自由分子の拡散係数とオーダー的にはほぼ一致しており、ゲルが吸着操作において速度論的に操作阻害要因にはなっていないことを示す。
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