電解重合は特異かつ多様な有用特性をもつ導電性高分子膜材料の厚みを任意に制御して合成できるという特徴をもつが、その他の物理・化学構造や秩序性は膜の合成時に非蓋然的に決定され、合成条件の選択による膜特性の制御範囲が狭く、かつ合成後の成形加工も困難である。このような要因が電解重合膜(導電性高分子膜)の実用化と用途拡大における大きな障害になっていることに疑う余地はない。例えば、電解重合膜を用いた固体電解コンデンサの小型化・大容量化のためには、コンデンサを形成する細孔内部表面の誘電体酸化膜上に均一で緻密な電解重合膜を形成させることが必須条件となるわけだが、有機電解液中において実施される従来の電解重合法で得られる重合膜は粒塊のからみ合った粗雑なものとなることが多い。このため、膜自体の密度が低くなってしまうことはいうまでもないが、これら電解重合膜を固体電解コンデンサや太陽電池に応用するような場合には、しばしば、膜と多孔性基板の間に空隙が生じ、十分な容量や電流が引き出せないなどの問題が起こりうる。 ところで、超臨界流体の拡散係数は液体と気体の中間に位置することから大きな物質移動速度と細孔等への高い浸透性が期待できる。また、その密度は液体とさほど変わらないことから溶解力は液体並であり、反応メディアに用いることも可能である。つまり高拡散性の超臨界流体を電解重合メディアに用いれば、細孔などを有する複雑な基板に対しても細孔内部への効率的なモノマー輸送を行うことが出来、結果として付き周りの良い均一で緻密な電解重合膜が形成されるものと着想した。 さまざまな機能特性をもつさまざまな種類の導電性高分子材料が知られているが、固体電解コンデンサや太陽電池などへの応用に焦点を絞り、ポリチオフェン膜およびポリピロール膜を対象にして、今年度はこれらの重合膜を超臨界フルオロホルム中で電解合成した。その結果、そこで得られた導電性高分子膜は粒塊の存在しない均質で、しかも極めて高密度なもの(従来法の10倍程度)であることが明らかとなった。また、超臨界流体の温度、圧力などの高分子膜の形質や物性への影響因子を明確にし、超臨界流体利用による高密度導電性高分子膜の作製のための基盤的指針を確立した。
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