バイオマス処理溶媒に有用な高温高圧水を利用して、水素を効率よく生成するための新しい方法について研究している。申請者は水素製造法として、水性ガスシフト反応に有利な200-400℃において、高温高圧水中でバイオマスを部分酸化させてCOを選択的に生成させ、その後水性ガスシフト反応により選択的に水素に転換する手法に着目している。従来、低温でバイオマスから水素を生成させる反応では、水素化活性金属触媒などを用いるため化学平衡的に有利なメタンの生成も進行してしまう。それに対し、申請者が提案する方法では、水性ガスシフト反応に活性な触媒でCOから水素を生成させる方法を採用するためメタンの生成が抑制でき、選択的に水素を生成させることができる。 本研究では、回分式および流通式反応装置を用いて、高温高圧水中でのバイオマス(セルロースとリグニン、およびそれらのモデル化合物)の部分酸化・水素製造について、温度(200-400℃)、圧力(2-40MPa)、反応時間(10秒-60分)、酸素量、バイオマス濃度、金属酸化物触媒を様々変化させて、反応機構の解明と最適条件の決定を行う。最終的にはバイオマスからの連続水素製造装置を開発し、連続的にバイオマスを処理し高収率で水素を回収するプロセスを提案したい。 昨年度、酸化亜鉛触媒に関して、回分式装置を用いてバイオマス種と酸素量によるガス化特性の変化について検討した結果、グルコースのような単糖類は比較的容易にガス化することができるが、リグニン質やタンパク質が含まれるバイオマス種に対しては、水素の選択率が低下したことを見出した。このことは酸化亜鉛触媒に硫黄などのヘテロ原子が吸着することにより触媒活性が低下した可能性を示しており、触媒種として新規物質の適用の必要性が示唆された。また、酸素量に関しては、バイオマスが含有する酸素原子量に対して加えた酸化剤由来の酸素量の比によりガス化効率を予測できることを見出した。プロセス開発にはその反応機構が重要となり、次年度における重要な懸案事項が提示された。 このことを受け本年度は、酸化亜鉛以外の触媒の有効性を探るべく、亜鉛に銅を添加した多種金属酸化物触媒および塩基性が期待されるMgOを用いて検討した。その結果、いずれも水素製造には有効でないことが明らかとなった。高温高圧水中での部分酸化反応機構を探るべく、メタノールを出発原料としたモデル実験を行った。その結果、低温領域ではギ酸などの水素前駆体の生成が比較的多く、水性ガスシフト反応以外の経路からの水素製造についても考慮する必要があることが示された。
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