染色体複製・分配のような基本的な生体反応に狂いが生じると染色体の異数化、がん化など細胞に対する悪影響が生じる。したがって、染色体複製や分配の正確な分子機構を解明することは、遺伝学における本質的な課題の一つである。本研究では、主にプロテオミクスを用いて新規セントロメアタンパク質を同定してセントロメアを構成する巨大複合体の実体を知ることを目的としている。また、同時にセントロメアやその近傍のヘテロクロマチンの形成に必要な分子機構の解明を試みといる。昨年度までの研究で、ヒトおよびニワトリ細胞からセントロメアタンパク質CENP-HおよびCENP-Iと強く相互作用する9種類のタンパク質を同定した。18年度は、昨年度までの実験を繰り返し、さらなるタンパク質の同定を進め、CENT-H/I複合体には昨年同定したタンパク質を含め少なくも13種類のタンパク質を含むことが明らかにできた。CENP-H/I複合体を構成するタンパク質のノックアウト細胞を複数作成し、それらが正常な染色体分配とキネトコア形成に必須な役割を担っていることが明らかになった。さらに、CENP-H/I複合体が、新しく合成されたCENP-Aの取り込みに重要な働きを担うことを示すことができた。また、セントロメアやその近傍のヘテロクロマチンの重要な働きを担う可能性がAgo3遺伝子のノックアウト細胞を作成し、ノックアウト細胞において、ヘテロクロマチン形成の必要と思われる遺伝子の発現が低下していることを明らかにできた。
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