| 研究概要 |
緑藻アオサ・アオノリ類は世界中の沿岸域で最も目立つ海藻類で、世界で約150種が報告され河川でも生育している。まず河川アオノリの種多様性を明らかにするため、全国レベルでの分布調査を行い、採集品140個体からDNAを抽出し,核コードITS領域の塩基配列を決定した。このデータを,海産アオサ・アオノリ類のアライメントファイルに加え分子系統樹を構築した。その結果,河川アオノリは,5種類に分かれた。これら5種類のうち4種は未記載種で,今後の詳細な分類学的研究により新種記載を行う予定である。残りの1種は,既にGenBankに登録されているU.linza, U.Procera, U.Prolifera(LPP)complexに含まれた。
最も多くの個体が含まれたLPP complexの分布域拡大の方向性、環境適応の回数さらにはその起源などを5S rDNAスペーサー領域を用いた分子生物地理学的解析を行った。その結果,「河川アオノリはごく最近海産ウスバアオノリから分化し,それは進化の過程でたった1度だけ河川という汽水域に適応した株が,全国の河川へと分布を拡げていった」という進化のストーリーが考えられた。
また,沖縄県石垣島と与那国島で淡水に生育するアオノリを発見した。分子系統解析の結果,アオサ類の起源種と推定された。この種の培養株を確立し,海水と淡水とで生育させた藻体からタンパク質を抽出し電気泳動で比較した。その結果,淡水培養藻体で特異的に発現するバンドが検出され,このタンパク質をコードする遺伝子の全長を決定したところ,レクチンタンパク質と相同性が高い事が示された。現在,この遺伝子の機能や,近縁種での遺伝子発現や存在の有無を調査中で,海水域から淡水域への分布域拡大を成功させた遺伝子進化を解明していきたい。
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