河川に生育する緑藻アオノリ類に注目し、沖縄県は天然記念物である塩川をはじめとして、小笠原諸島、奄美大島、種子島、九州、四国、本州日本海側、本州太平洋側および北海道の各河川で採集を行い、種多様性、生物地理、形態形成、低塩分耐性に関する研究を行った。 [種多様性解析]河川アオノリはこれまでスジアオノリ1種と考えられていたが、核ITS領域による分子系統解析の結果、河川アオノリとして6種が確認でき、そのうち1種を新種記載した。 [生物地理学的解析]解像度の高い2種類のDNAマーカーを用いて主要な河川アオノリ種であるスジアオノリの生物地理学的解析を行った。その結果、「スジアオノリはごく最近海産ウスバアオノリから分化し、それは進化の過程でたった1度だけで、河川という汽水域に適応した株が四国で誕生し、その株が全国の河川へと分布を拡げていった」という進化ストーリーが考えられた。 [形態形成解析]上記研究で近縁であることが示された海産ウスバアオノリと河川産スジアオノリを海水培養し形態を比較した。その結果、それぞれの種は特定の形態を維持し、形態的な違いが遺伝的に固定されていることが示唆された。 [低塩分耐性解析]沖縄の河川に生育する株を用いて現地の湧水と海水とで培養し、それぞれの培養株からタンパク質を抽出して比較した。現地の湧水で培養した藻体には約20kDのタンパクバンドが特異的に強く発現しており、このタンパク質をコードしている遺伝子を単離したところ、レクチン様遺伝子であることが示唆された。今後は、低塩分耐性に関わる遺伝子群を網羅的に探索し機能推定するなどして、海水から淡水への適応進化に関する遺伝的バックグランドを理解したいと考えている。
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