研究概要 |
脂質非対称の維持・局所的変化は様々な生命反応に重要である。しかし,これまで脂質非対称を感知するシステム及びその下流のシグナル伝達経路に関しては全く未解明であった。脂質のフリップ・フロップを触媒する酵素はトランスロカーゼと呼ばれ,脂質非対称維持に働いている。これまでに我々はグリセロリン脂質トランスロカーゼの変異によって脂質非対称を変化させると,スフィンゴ脂質骨格である長鎖塩基のトランスロカーゼRsb1の発現が上昇することを見いだし,酵母の変異株スクリーニング等による解析からこの脂質非対称変化依存的Rsb1の発現誘導にアルカリ適応に関わるRim因子,転写因子Mot3,プロテインキナーゼMck1が必要であることを明らかにしていた。本年度の研究では,Rim経路と脂質非対称シグナルに関する更なる詳細な解析を行った。Rsb1誘導には,細胞膜における受容体と推察されているRim8,Dfg16から,シグナル伝達最下流に位置する転写因子Rim101に至るまで全てのRim因子が必要であった。また,脂質非対称を変化させると逆にRim経路が活性化することを見いだした。このことは,まさにRim経路が脂質非対称を感知し,シグナルを伝える経路であることを示していた。さらに,Rim101による制御を受けるNrg1がRsb1プロモーターに直接結合して,発現を調節していることも見いだした。また,Rim経路はMot3,Mck1とは異なる経路でRsb1発現を誘導していることを明らかにした。このことは脂質非対称シグナル経路が複数存在することを示唆している。 本研究では生理活性スフィンゴ脂質スフィンゴシン1-リン酸とその合成アナログである新規免疫抑制剤FTY720-リン酸の血小板/赤血球におけるトランスロカーゼに対する解析も行っており,刺激に対する依存性,ABCトランスポーターの関与等を明らかにした。
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