研究概要 |
シアノバクテリアは最も単純な概日リズムのモデル生物である。KaiA, KaiB, KaiC蛋白質の蛋白質問相互作用を介して発生する基本振動は,全ゲノムにおよぶ転写制御に影響をもたらす。本年度は,KaiA, KaiB, KaiC蛋白質によるゲノムワイドな転写制御に関して大きな進展が得られた。まず,KaiC結合性ヒスチジンキナーゼSasAのパートナーとなるレスポンスレギュレーターRpaAを同定した。rpaA遺伝子破壊株では転写レベルの概日リズムが停止した。さらに,in vitroでSasAからRpaAへのリン酸基転移反応が起こること,さらにKaiABCによるinvitro振動システムとの組み合わせにより,KaiC蛋白質の時刻情報が,位相依存的にRpaA蛋白質のリン酸化促進されることによりリレーされることを示した。RpaAはDNA結合ドメインらしきモチーフ配列を持っているため,現在ターゲット遺伝子の探索を行っている。また,Kaiシステムの従来の表現型をできるだけ広範に説明するシミュレーションモデルを,慶応大学三由氏と共同で構築し,論文発表した。この数理モデルは,従来の分子遺伝学的データの多くにフィットしているが,最近明らかになったリン酸化回転の遅さといったKaiの際立った特性からは乖離していた。したがって,Kai蛋白質の生化学反応には,未知の新たな特性があると考えられ,実験的にKai蛋白質の性質を精査することが必要と考えられる。
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