本研究は、Rhoファミリーの標的蛋白質IRSp53が結合する様々な蛋白質複合体の働きについて、細胞機能との関わりに重点をおいて解析するものである。前年度までの研究成果としてRNAスプライシング因子SF3a66との結合を見つけ、それが神経突起形成に関わる可能性を示唆する結果を得ていた。内在性SF3a66蛋白質の細胞内局在を複数の抗体で検討したところ、一つの抗体では神経突起先端部に明瞭なシグナルを確認した。生化学的な分画でも核以外の部分での存在を示すデータが得られており、核内でのスプライシング因子としての働きとは異なる新規機能の可能性が示唆された。 一方、別の結合蛋白質として見つけていたEps8との関連について調べた。EGF刺激応答性のEps8のチロシンリン酸化がIRSp53の共発現によって促進される事を見つけていたが、EGF受容体との複合体形成は逆に阻害されることを新たに発見した。このことは刺激応答性にリン酸化を導くと同時に、受容体からの解離を促す事でシグナル伝達を制御している可能性が考えられる。 またIRSp53にはいくつかのスプライシングアイソフォームがあり、C末部のいくつかのアミノ酸が削れたタイプも知られている。それらに関して結合蛋白質の解析を行ったところ、新規の結合蛋白質の存在は見つからなかったものの、既知の結合蛋白質への結合パターンに変化が見られることが明らかとなった。このことは、IRSp53のアイソフォームが互いに微妙に異なるシグナル伝達能を有していることを示唆しており、今後の重要な検討課題となっている。
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