研究概要 |
本年は,アウストラロピテクス・アファレンシス中手骨の関節面形状分析と,手部精密骨格モデルによる把握シミュレーションを行った。アウストラロピテクスの骨標本には,東京大学総合研究博物館所蔵のAL333/333wのキャストを用いた。まず非接触3次元スキャナを用いて,一つ一つのキャストの3次元表面形状モデルを構築した。そして中手骨の各関節面を抽出し,二次曲面や平面で近似することにより,その3次元的形状の特徴を定量化し,比較した。その結果,アウストラロピテクスの第二中手骨は,相対的にヒトのそれと類似するのに対して,第一中手骨,特に近位関節面の形と向きは,チンパンジーのそれに類似していることが明らかとなった。こうした形態的特徴が,精密把握にどのよう影響を与えるのかを評価するために,解剖学的に精密なアウストラロピテクス手部骨格モデルを構築した。残念ながら遠位手根骨(大菱形骨,小菱形骨,有頭骨,有鈎骨)のうち,小菱形骨の化石が存在しないため,母指の向きと位置を定める上で重要な大菱形骨の配置を定めることはできないが,ここではチンパンジー新鮮屍体の手部3次元CT撮像データを参考に,それをできる限り正確に推定した。そして遠位手根骨に対して中手骨の位置と向きを定め,さらに前年度に確立した関節面分析手法により,中手骨と指骨(基節骨,中節骨,末節骨)をそれぞれ互いに関節させた。関節形態に規定される節の運動学的拘束を詳細に反映した本モデルを用いて,アウストラロピテクスのピンチ動作を再現した。その結果,母指と示指の指先で物体を把握することは可能であることが明らかとなった。しかし,第一中手骨近位関節面がチンパンジー的であるため母指対向性が相対的に弱く,アウストラロピテクスの精密把握能力は限定的であることが示唆された。
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