イネにおける草丈の短桿化は、耐倒伏性の獲得と収量増加をもたらす農業上重要な形質の一つである。これまでの茎葉伸長に関する研究では、人為的に変異を誘導して得られる機能欠損型遺伝子を研究対象にしたものが多いが、この手法では機能が重複した遺伝子が存在する場合に変異体が獲得できない。また、野生イネの中には、栽培種には存在しない機能獲得型の遺伝子が存在する可能性が示唆されている。浮イネ性の遺伝については、これまで結果の異なる様々な報告がなされているため、はじめに解析に用いた浮イネ系統の深水条件下での表現型調査と、浮イネ系統とT65のF_2分離集団を用いて浮イネ性の遺伝解析を行った。浮イネ系統を深水処理した結果、T65に比べて著しい節間伸長が観察された。また、F_2分離集団を用いた遺伝解析で連続的な分離を示したことから、解析に用いた浮イネ系統の浮イネ性には複数の遺伝子が関与していることが明らかとなった。 浮イネ性の遺伝解析によって浮イネ性が量的形質であることが明らかとなったため、伸長節間数・総節間長に関してQTL解析を行った。QTL解析の結果、解析に用いた3集団すべてにおいて第12染色体に浮イネの遺伝子が伸長節間数および総節間長を増加させる強いQTLが検出された。また、早期に節間伸長を開始するという形質も量的形質であることがわかり、C9285とT65のF_2分離集団を用いて、節間伸長開始時期に関するQTL解析を行った。QTL解析の結果、伸長節間数・総節間長のQTL解析で検出された第12染色体の強いQTLとほぼ同じ位置に、C9285の遺伝子が節間伸長開始時期を早くするという強いQTLが検出された。また、第12染色体以外に第3染色体にも比較的作用の強いQTLが検出された。伸長節間数・総節間長・節間伸長開始時期に関するQTL解析の結果から、これら浮イネ性に関するQTLの中でも第12染色体に存在するQTLが浮イネ性の主導遺伝子であるということが考えられた。そこで、第12染色体のQTL領域をW120、他をT65の染色体に置換した準同質遺伝子系統を作出した。分子マーカーで染色体状況を確認したところ、第12染色体のQTLを保持しており、深水条件下で著しい節間伸長が観察されたことから、準同質遺伝子系統化が成功していると考えられた。 近年、浮イネの節間伸長には植物ホルモンの関与が示唆されているが、T65等の栽培品種と比較した報告は少ない。そこで、準同質遺伝子系統とT65を用いてエチレン、ABA、GAに関する生理学的解析を行った。その結果、深水条件下でエチレン含量が増加すること、節間伸長にはABA含量の低下が必要であること、深水条件下での節間伸長にはGAが必要であり、伸長節でGA含量が増加するというこれまでの知見に沿う結果が準同質遺伝子系統で得られた。T65でも順同質遺伝子系統とほぼ同じ挙動を示すことが明らかとなった。
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