研究概要 |
セルロースに代表される構造性多糖分子は、単純な一次構造でありながら高度な階層的集合化機能を有する。また、生命情報分子として働く機能糖鎖についても、高次集合体の形成がユニークな生理機能の発現に深く関与している。本研究では、ナノテクノロジーの要素技術である自己組織化による多糖分子ベクトルの配向制御により、構造と機能が一体化したナノアーキテクチャーの創出に挑戦する。本年度は、セルロース分子構造薄膜の調製とキャラクタリゼーションを行い、以下の成果を得た。 1.膜設計 セルロース溶剤のN-メチルモルフォリン-N-オキシド(NMMO)を反応媒体とし、セルロース分子の還元末端特異的にチオセミカルバジドを導入した。Au(111)基板上でS-Au結合を介して化学吸着させ、NMMO分子を取り除きながらセルロース分子鎖間に働く規則的かつ固有の相互作用を誘発し、分子鎖ベクトルが揃った超薄膜(30nm)を構造設計した。 2構造解析 X線光電子分光分析により、薄膜がセルロースのみからなることを確認した。また、原子間力顕微鏡観察により、薄膜表面が分子レベルで平滑(RMS<1nm)であることが示された。さらに、金基板ごと剥離して透過型電子顕微鏡観察に供したところ、薄片周囲に同一配向で集積した物質が確認され、電子線回折測定により、セルロースI型の結晶構造体であることが判明した(格子間隔:0.63nm(1-10),0.56nm(110),0.43nm(200),0.26nm(004))。すなわち、分子分散状態から熱力学的制約を超えて天然セルロースの結晶構造を再構築することに成功した。 3.界面機能 セルロースI型の結晶構造薄膜を、SPRおよびQCMの検出器に適用した。酵素反応や染料分子の吸着現象等のモニタリングが可能で、セルロース/水界面における諸現象解明に有用であった。
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