研究概要 |
研究の背景と目的 東京湾への負荷の多くが河川やそれに付随する運河を通して流入することから,流入水が,どのように湾内の環境に影響を与えるかを明らかにする必要がある。自然の浄化作用のひとつとして,硝化・脱窒作用が知られている。この硝化反応の一部を担うアンモニア酸化細菌は,水圏での窒素循環に重要だが,東京湾におけるアンモニア酸化細菌群集については,知見が得られていない。本年度は,河川水が東京湾内湾のアンモニア酸化細菌の分布と現存量に与える影響を評価するために,荒川の河口から湾央に向けてトランセクトを設定し,堆積物試料中のアンモニア酸化細菌数をリアルタイム定量PCR法と蛍光抗体法を用いて解析した。 方法 荒川河口から湾央に向かって採水・採泥を行なった。調査地点ごとの群集を比較するために,抽出DNAからアンモニア酸化細菌由来の遺伝子をPCR増幅し,RFLP解析を行った。次に,優占するアンモニア酸化細菌群を特定するために,抽出したRNAに対しRT-PCRを行い,16S rRNAクローンライブラリー作成後,塩基配列を決定した。定量的解析としてリアルタイム定量PCRを行なった。さらに相補的なデータを得る目的で蛍光抗体法を用いてアンモニア酸化細菌の分布状況の把握と現存量の推定を行なった。 結果と考察 それぞれの調査地点ごとに特徴的なRFLP多型が認められ,河川水がつくる環境勾配がアンモニア酸化細菌群集構造に影響を与えていることが示唆された。クローンライブラリー解析の結果,水再生センターからの放流水に含まれるアンモニア酸化細菌がそのまま堆積物中に定着するのではなく,海洋環境に適応したアンモニア酸化細菌群集が存在していることが判明した。リアルタイム定量PCRによるアンモニア酸化細菌数は1.6x10^7〜3.0x10^8細胞/gの範囲で,これは蛍光顕微鏡観察から求められた全菌数の0.1〜1.1%に相当した。また蛍光抗体法では,2.4x10^8〜1.2x10^9細胞/gの範囲で,これは全菌数の1.2〜4.3%に相当した。二つの異なる定量法の間に相関が認められ,いずれの方法においても菌数は湾央の調査地点で高い傾向を示した。
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