本年度は、ギセリン遺伝子改変動物の作製と解析により個体レベルでのギセリンの役割解明に焦点を当てた。さらに、ギセリンの発現調節機構の解明と腫瘍における発現意義・応用性を追及した。研究実績を以下の1)〜4)に示す。 1)ニューロフィラメント・プロモーターの下流にギセリン遺伝子とGFP遺伝子を組み込んだトランスジェニックマウス(C57B)を作製した。これまでに神経組織(特に中枢の神経細胞)にギセリンを過剰に発現するマウス2系統の作製に成功し、繁殖維持を行っている。現在のところ、子孫には形態および繁殖能力に異常は見られていないが、今後、学習能力や神経組織再生能に焦点を当て、ギセリンの発現が神経系に与える影響を追及する。 2)ギセリン遺伝子のプロモーター領域の同定に成功した。培養細胞に導入し、種々の細胞増殖因子を添加した状態でレポーターアッセイ(デュアル・ルシフェラーゼ法)を行った結果、NGF、TGF-β、フォルスコリンがギセリンの転写活性を促進することが判明した。 3)ギセリン遺伝子を組み込んだ各種腫瘍細胞を動物に移植した。その結果、浸潤能や血行性転移能が著しく促進されたことから、ギセリンが腫瘍細胞の転移・浸潤の促進に関与することが証明された。一方、腫瘍を移植した動物の血液にはギセリンが検出され、血中値(ELISA法)が腫瘍の体積と相関することから、新規の血清腫瘍マーカーになる可能性が示された。 4)マウス、ラット、犬、ヒトのギセリン遺伝子全長の同定に成功した。細胞内領域のホモロジーが90%と高値を示すことから、この領域が動物種間で保存された機能的部位であることが示唆された。さらに、各種動物のギセリンと交差するポリクローナル抗体、およびとラットおよび犬のみを認識するモノクローナル抗体の作製に成功した。
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