本研究では、ギセリン遺伝子改変動物の作製と解析による個体レベルでのギセリンの役割解明、さらには発生・再生・腫瘍におけるギセリンの発現調節機構や機能の解明と制御による治療・診断への応用化を目的とした。 18年度は以下の研究成果を得た。 1)組織再生および癌におけるギセリンの応用化 (1)組織再生促進法の開発:遺伝子工学的にギセリンのリコンビナント蛋白質を作製した。これを基質として皮膚上皮および坐骨神経組織損傷部位に添加することで、再生治癒の促進に成功した。 (2)ギセリンを標的とした腫瘍治療:乳癌やメラノーマを移植したマウスに抗ギセリン抗体を腹腔内投与することにより、移植した腫瘍細胞の浸潤および肺転移の抑制効果を見出した。 2)ギセリン遺伝子改変マウスの作製と解析 昨年度に作製したトランスジェニックマウスを用いて、形態的な変化が出るかを肉眼解剖や組織学的に検討した。 (1)このマウスの出産と発育に異常は見られなかったが、老化により腫瘍(特に乳癌)の発生率が高いことが判明した。 (2)神経系と筋組織(筋上皮細胞を含む)にギセリンの過剰発現が認められたが、組織学的な著変は見られなかった。 今後、このマウスを用いて行動や再生治癒の異常、さらには腫瘍細胞(ギセリン陽性)の定着性や転移性などを検討する予定である。 3)腫瘍マーカーとしての応用化 自然発症腫瘍におけるギセリンの発現を解析した結果、悪性腫瘍(特に浸潤・転移部位)にギセリンの強い発現が見出された。さらに、ELISAにより担癌動物の血液中にもギセリン蛋白が検出され、腫瘍体積とギセリン濃度の相関性が認められたことから、新規の血清癌診断マーカーとなる可能性が示唆された。
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