本研究は、ツキノワグマの出没要因を解明するため、行動追跡、生理モニタリング、食物資源調査、生息環境の変化に関する調査を行い、GIS上で解析を行うものである。本年はクマの出没が極端に少なく、発信機が装着できた個体は1個体であった。そのため、毎年行う食物資源調査と過去に発信機を装着した個体の追跡のほか、GIS上での解析に必要となる植生図の情報整備を集中的に行った。したがって実施した内容のうち、発信機装着や遠隔ダウンロード等の現地調査の回数が予定より大幅に減り、GIS整備委託費、被害調査委託費などに多くの費用を要した。 GIS整備については、クマの生息環境の変遷がクマの行動に及ぼした影響を推定するため、1900年、1950年の古地図から植生図をデジタル化した。食物資源の調査では、兵庫県内を4×5kmのメッシュに区切り、各メッシュ内のブナ、ミズナラ、コナラの堅果類豊凶調査を行った。その結果、クマの主要な生息地である高標高のブナ・コナラの豊凶指数が著しく高く、2005年は豊作年であったことが明らかとなった。行動追跡からは、2004年に集落周辺で被害を及ぼした個体がブナ帯や高標高地域のみで行動していることが明らかとなり、豊作地域との行動範囲の一致が見られた。集落での被害も著しく少なかった。このように一度集落に被害を及ぼした個体でも、豊作年には集落へ出没しないことを確認、今後のクマ対策に重要な知見を与える情報が得られた。また、GIS装着個体については、放獣から7日後にデータの遠隔ダウンロードを試み成功した。測位試行回数は189回、うち成功数147回、有効測位回数は46回(約24%)であった。有効測位回数としては低い割合であったが、地上波と比べると格段に効率が良い。以上から、兵庫県の環境においてもGPSテレメトリーの測位やダウンロードに支障がないことが確認できた。
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