本研究は、ツキノワグマの出没要因を解明するため、行動追跡、生理モニタリング、食物資源調査、生息環境の変化に関する調査を行い、GIS上で解析を行うものである。本年度はクマの大量出没があり、52頭のクマを捕獲・学習放獣を実施した。そのうち、9頭についてGPS内臓発信機の装着に成功、7頭については、行動追跡を行い、遠隔ダウンロードにも成功した。前年度からの追跡個体を含め、8頭の詳細な行動追跡のデータが蓄積できた。2頭については、発信機の不具合により行動追跡が行えていない。行動追跡を行った7頭のうち2頭については、学習の効果が認められない行動が再三繰り返されたため、兵庫県の保護管理計画の基準に基づき、追跡途中ではあったが捕殺に至った。捕殺された個体については、詳細な解剖を実施し、齢査定や栄養診断を行った。このように昨年来から予測されたように本年度は、クマの行動追跡に多くの費やし、のべ1876回の有効測位回数を得ることができ、これまで追跡が困難であったツキノワグマの長期的な行動追跡に成功した。 さらに、これらの情報と昨年度に収集整備した古地図データとのオーバーレイを実施した。その結果、クマが現在行動域として利用している二次林の多くは、50年から100年前には、荒地・草地であり、薪炭林としての人による利用が顕著で当時はクマが活動できる植生ではないことが明らかとなった。その後集落周辺にあった薪炭林はエネルギー革命とともに活用されなくなり、この50年間の間に放置されたまま広葉樹の二次林へと変化し、ツキノワグマが自由に活動し、集落周辺まで容易にアクセスできる状況を生み出していたことなど、集落環境を取り巻く社会的な変化がクマの行動にも大きく影響していたことが推測された。今後は、得られた位置情報から、冬眠穴の環境調査、昨秋執着が著しかった集落環境の調査、さらにこれまで解剖調査を行った30個体の分析を行い、GIS上での解析を行っていく。
|