研究概要 |
聴覚は生物が生命活動を営むため不可欠な感覚である。音情報を受容するため高度に分化した器官が内耳蝸牛である。日本では、多くの内耳性聴覚・平衡覚障害患者が存在しており、効果ある治療法の開発が急務であるが、その基盤となる基礎研究も含めて、殆ど進んでいない。本研究では、内耳機能に必須である、蝸牛内リンパ液の高K^+・高電位の成立機構における分子基盤の解明と、それらの統合的機能連関を多彩な方法を駆使して解明することを目指す。特に、蝸牛内リンパ液のイオン・電位環境成立に中心的役割を果たしているK^+循環システムに焦点を当てる。研究代表者がその内耳における重要性を見出した内向き整流性カリウムチャネルKir5.1の解析を進め、更にK^+循環に関わる新たなイオン輸送体を検索する。また、Kir5.1を含めた種々の分子の機能破綻と疾患との関連を解明する。具体的に、(1)疾患モデルマウスの確立-Kir5.1ノックアウト(KO)マウスの作成と機能解析、(2)K^+循環に重要な新規分子の同定、(3)難聴や平衡障害の家系におけるカリウムチャネルや他の分子の遺伝子異常の探索、(4)内リンパ液K^+濃度及び電位の全蝸牛レベルでの可視化と、病的状態下での変化の検討、(5)In silicoにおける、内リンパ液の産生過程及びその高K^+・高電位の成立機構のシミュレーション、のプロジェクトを進め、その達成を目標とする。 本年度は、上記(1)及び(2)を中心に研究を進めた。Kir5.1-KOマウスの作成に成功し、ウエスタンブロッティング法により、Kir5.1蛋白質が確かに欠損していることを確認した。更に、聴覚・平衡覚機能解析を進める予定にしている。また、(2)については、胃型プロトンポンプ(H^+,K^+-ATPase)が蝸牛側壁に豊富に発現しており、高電位の成立に重要な役割を果たしていることを見出した。
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