研究課題
ミトコンドリア病の治療としては、現状、呼吸鎖酵素の基質やビタミン類の投与などが行われているが、このような方法では根本的な原因である変異型mtDNAを取り除くことはできない。そこで着目したのが、卵に対する出生前遺伝子治療である。mtDNAは母性遺伝するため、変異型mtDNAを保有するミトコンドリア病の母親から生まれる子供もミトコンドリア病を受け継いでしまう。しかし、卵において変異型mtDNAの割合を減らすことができれば、生まれてくる子供のミトコンドリア病の諸症状を抑制できる可能性がある。ミトマウス受精卵における欠失型mtDNAの割合を減らす方法としては,正常なマウスの細胞質を移植する方法もあるが、この方法では微量なミトコンドリアしか導入できない。そこで、除核した正常なマウス卵(野生型mtDNAのみを含有する)にミトマウスの核を移植する方法をとった。核移植の際には核の周囲の欠失型mtDNAを含むミトコンドリアも同時に持ち込まれることになるが、その割合は卵全体のミトコンドリアの約6%であり、呼吸活性の低下を引き起こすことはないと予想された。結果として、核移植によって誕生した個体では顕著な欠失型mtDNA含有率の減少が見られた。また、この欠失型mtDNAの減少によって、ミトマウスに特徴的なミトコンドリア病の諸症状は完全に抑制された。つまり、核移植によって生まれて来たマウスはミトマウスの核ゲノムを持つにも関わらず、欠失型mtDNAを微量しか含有しないため、ミトコンドリア病を発症しないのである。これらの結果から、受精卵核移植はミトコンドリア病の出生前治療において極めて有効な方法であると結論できた。
すべて 2006 2005
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