妊婦交通外傷の現状を調査したこれまでの検討で、妊婦の損傷重症度から胎児予後を推定することが困難であることがわかった。また、動物実験では、妊娠ラットの腰部に92Gまでの加速度を作用させても、出生ラットの数、体重、予後に影響をおよぼすことがなかった。これらの結果に基づいて、軽微な追突事故を想定したスレッド試験を行い、ダミーに観察される生体力学的パラメーターを計測した。台車上に実車同等の設備(シート、ステアリング、シートベルト等)を装着したInstron社製サーボスレッド装置を用いた。女性の5パーセンタイル体格をモデルした衝突試験用ダミーに、FTSS社製の妊婦腹部を装着した。Folksamのテストプロトコールにしたがって、衝突速度約24km/hで追突試験を行った。 シートベルト着用時には衝突開始から約100ms後に、ダミーは約15cm後方に移動した。そして、反動で前方へ移動したが、腹部とステアリングとの接触はなかった。子宮内圧は、後方に最大移動したときに第一のピークを示し、さらに反動で最前方へ移動したときに第2のピークを示した。圧力変化は第二のピーク時に最も大きく、約23KPaであった。これは腹部前面におけるシートベルトの圧迫で生じたと考えられる。次に、シートベルト非着用時に同様の試験を行った。ダミーは同様な軌跡をとったが、衝突開始から230ms後に、腹部はステアリングと接触した。このときの子宮内圧は約62KPaであった。追突事故では、乗員の体が反動で前方へ移動した際に、子宮内圧が最も高くなることがわかった。さらにシートベルト非着用時には腹部がステアリングと接触し、子宮内圧変化はより大きくなることがわかった。シートベルトの着用は、追突時における腹部とステアリングとの二次衝突を予防するうえでも重要である。
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