平成17年度に行った動物実験結果および平成18年度に行った妊婦衝突試験用ダミーを用いたスレッド試験結果を総合的に解析した。その結果、妊婦が時速30km/h以下の追突事故に遭遇した際、腰部にかかる外力のみでは、胎児の予後に悪影響をおよぼすというエビデンスは得られなかった。さらに、追突事故に遭遇した前席乗員は、反動で腹部を車室内部に強打することがわかった。したがって、妊婦乗員のシートベルト着用効果を考えるうえでは、この腹部にかかる外力を低減させることが重要であると結論づけた。シートベルト着用で、追突時における腹部とステアリングとの二次衝突をある程度予防し、子宮内圧の変化を低減できることがわかった。しかし、負荷された加速度が大きいか、あるいは乗車位置がハンドルと近い場合に、シートベルトを着用してもある程度の外力が腹部へ作用することが明らかになった。そこで、さらなる積極的予防策として、緊急ベルト引き締め装置を追突事故時に作動させるシステムを考案した。その結果、比較的高速度の追突事故遭遇時には、子宮内圧をさらに低減させ、胎児保護に効果的であることが示唆された。 また、低速度(約13km/h)の正面衝突事故をモデルしたスレッド試験を行ったところ、シートベルト着用時には、子宮内圧の上昇を35〜45%に軽減できることがわかった。したがって、シートベルトの着用は、追突および正面衝突時の妊婦子宮内圧上昇を抑制するうえで有効であった。 妊婦のシートベルト着用について社会的議論がされているなか、われわれはシートベルト着用が胎児保護に有効である科学的根拠を明らかにした。本研究成果の一部は新聞、テレビ等でも紹介されたが、これら成果を積極的に公表し、一般の方に正しい知識を啓蒙している。
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