研究概要 |
癌におけるエピジェネティックな異常、特にDNAメチル化異常は近年盛んに研究されている分野である。その背景にあるメカニズムは依然不明であるが、それを解明する手段のひとつとしてDNAメチル化酵素の機能的解析が挙げられる。哺乳類細胞ではDNA methyltransferase 1(DNMT1)が維持メチル化、DNMT3a及びDNMT3bがde novoメチル化を司るとされているが、癌におけるそれぞれの役割は不明な点が多い。これまでの報告では、DNMT1とDNMT3bをノックアウトした大腸癌細胞はゲノムワイドに脱メチル化を来たし、野生型においてサイレンシングを受けている遺伝子の発現回復が見られることが知られている。 今回、本研究者は米国ジョンズホプキンス大学との共同研究でde novoメチル化酵素であるDNMT3aとDNMT3b遺伝子をノックアウトした大腸癌細胞(親株はHCT116)を作成した。ヒトTIMP3遺伝子のCpGアイランドと同一の配列を基質として用いた解析から、このノックアウト細胞がde novoメチル化活性を維持していることが明らかとなった。またDrosophila melanogaster細胞にヒトDNMT1とヒト遺伝子CpG配列を同時に導入したところ、ヒトCpG配列のメチル化が認められたが、Drosophilaゲノムはメチル化を受けなかった。更にDNMT1とDNMT3bをノックアウトしたDKO細胞(double knockoutの略,親株はHCT116)は前述のようにゲノムワイドな脱メチル化を示しているが、この細胞にアデノウイルスベクターを用いてDNMT1を過剰発現させた結果、遺伝子CpGアイランドの再メチル化が確認された。以上の結果から、DNMT1が癌における遺伝子CpGアイランドメチル化に主要な役割を果たしていることが示唆された。
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