本研究は、(1)放射線によって生じるDNA二重鎖切断の修復、シグナル伝達におけるDNA-PKの機能を理解すること、(2)次にその成果を放射線治療へ応用することを目的としている。DNA-PKはDNA二重鎖切断のセンサーとして、その修復や細胞応答の惹起に重要であると認められているが、リン酸化の標的分子とその意義が長らく明らかになっていない。松本は、最近数年、DNA-PKの真の標的分子の解明に取組んでおり、DNA ligase IVと常時結合し、その調節を司ると考えられている分子XRCC4をその有力候補として示していた。 本研究の初年度にあたる17年度は、(a)DNA-PKによるXRCC4のリン酸化の解析を進めるとともに、(b)XRCC4のリン酸化を指標とした放射線感受性予測、また、(c)これを干渉することによる放射線増感の可能性について初期的検討を行った。主な成果として、まず、siRNAやリン酸化状態特異的抗体などを駆使した実験により、生細胞内でのDNA-PKによるXRCC4リン酸化とその修復における重要性を確証することができた(投稿中)。DNA-PKによって、(1)生細胞内でリン酸化され、(2)修復機能に影響するリン酸化部位を示したのは、世界的にも、またXRCC4に限らず、初めてのことである。また、DNA二重鎖切断を最終的に結合するDNA ligase IVの制御に関わると考えられることから、放射線治療への応用可能性が高いことが期待される。 また、本研究では、上記目的の達成のため、XRCC4以外のDNA-PK基質の多数同定も目指している。放射線照射後に生じるXRCC4-クロマチンDNA複合体単離法が確立し、DNA修復反応における重要分子群を網羅的に同定するための有効手段となることが期待される。
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