研究概要 |
難治性疼痛モデル(Chungモデル)の脊髄後角におけるミクログリアの活性化様式を時空的に解析した.ミクログリア活性化の指標として,特異的細胞マーカーOX-42を使用した.末梢神経損傷24時間後に,ミクログリアの細胞体の肥大化や突起の退縮など,活性化の形態変化が観察された.さらに,損傷2日後には,多数のBrdU(細胞周期S期にDNAに組み込まれる)陽性細胞が出現し,OX-42陽性細胞数が劇的に増加した.したがって,神経損傷後に細胞分裂が誘発されることを示した.さらに,OX-42染色レベルは,損傷7〜14日後をピークとして増加し,アロディニア(触刺激による痛み)の発症と相関していた.ミクログリアの活性化は,通常の痛み情報が入力する脊髄後角第I層には殆ど無く,むしろ触覚刺激(Aβ線維)が入力する脊髄後角第III層で著明であった.以上の結果より,難治性疼痛を発症する末梢神経の損傷後に,脊髄後角のミクログリアが時間的・空間的に非常に制御された様式で活性化されること,その活性化にはAβ線維が重要な役割を演じている可能性を突き止めた. Chungモデルの脊髄におけるP2X4受容体発現増加因子の検討において,細胞外マトリックス分子であるfibronectin (FN)と核内受容体リガンドretinoic acid (RA)をその候補分子として同定した.両因子共に,初代培養ミクログリアへ処置することでP2X4受容体のmRNAとタンパク質発現を増加させ,機能的P2X4受容体レベルも増加させた.さらに,RAは核内受容体RXRに結合し,転写因子として標的DNA配列上へ結合し,遺伝子発現を制御しているが,そのRXR応答配列がP2X4受容体転写開始上流領域に存在することも見出した.したがって,ミクログリアにおいて転写因子RXRを介するP2X4受容体発現制御機構の存在が示唆された.
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