研究概要 |
難治性疼痛モデル(Chungモデル)の脊髄後角におけるミクログリアの細胞増殖を,増殖マーカーBrdU(細胞周期S期にDNAに組み込まれる)を用いて詳細に検討した. BrdU陽性細胞数は,神経損傷32時間後から急激に増加し,48時間でピークとなった.しかし,損傷28時間後では,BrdU陽性細胞数に変化が認められなかった.この結果から,細胞増殖周期S期の開始点が神経損傷後28〜32時間に存在することを明らかにした.さらに,神経損傷1日後に脊髄で発現量が増加することが知られているインターフェロンγを初代培養ミクログリアへ処置することで細胞増殖が誘発され,さらに,ラットの脊髄腔内ヘインターフェロンγを直接投与することでもミクログリアの増殖が観察された.以上の結果は,インターフェロンγがミクログリア活性化因子として重要な役割を演じている可能性を示唆している. Chungモデルの脊髄におけるP2×4受容体発現増加因子の検討において,初代培養ミクログリア細胞を用いたin vitro実験系から,細胞外マトリックス分子であるfibronectin(FN)と核内受容体リガンドretinoic acid(RA)をその候補分子として同定した.そこで本年度は,in vivoにおける役割についてそれぞれの受容体拮抗薬を用いて検討した.神経損傷によるラット脊髄でのP2×4受容体発現増加は,FN受容体拮抗薬およびRA受容体拮抗薬によりそれぞれ有意に抑制され,神経因性痙痛も緩解することを明らかにした.さらに,FNを正常動物の脊髄腔内へ投与することで,P2×4受容体の発現増加および神経因性痙痛様のアロディニアが誘発され,FNによるアロディニアはP2×4受容体欠損マウスで認められなかった.以上の結果から,FNとRAはin vivoにおいてもP2×4受容体の発現増加因子としての役割を担っている可能性を突き止めた.
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