申請者らは、石灰化の促進・抑制機構の解明を大きな目的とし、以下の解析を行った。 (1)靭帯線維芽細胞における石灰化抑制機構の解析 機械的刺激により骨芽細胞の石灰化は促進されるが、靭帯線維芽細胞においては、常時機械的刺激にさらされているにもかかわらず石灰化せず、独自の性質を保持している。そこで本研究では、歯根膜線維芽細胞株L2が機械的刺激に反応するが石灰化は促進されない機構の解明を目的とし、まず始めに、L2細胞の機械的刺激に対する応答をFLEXERCELL SYSTEM【○!R】(伸展刺激負荷装置)により検討した。その結果、骨芽細胞株MC3T3-E1では機械的刺激によりFAK、ERK1/2、Runx2の活性化が見られ、石灰化量が増加したが、L2細胞ではいずれの活性化も認められなかった。又、L2細胞においてもIntegrin α2/α5/β1は発現している事から、靭帯細胞では機械的刺激に対してFAKリン酸化の段階で抑制的に働く機構がある事が示唆された。次に、MC3T3-E1細胞に発現せず、L2細胞に発現する遺伝子群を単離する過程でIntegrin α7を見いだしたため、この抑制機構に関与するか否か検討した。RNAi発現ベクターを用いて、L2細胞内でIntegrin α7の発現を恒常的に抑制したところ、機械的刺激に応答したFAK、ERK1/2、Runx2の活性化が見られ、石灰化が認められるようになった。更に、Integrin α7欠損マウスを解析したところ、4週齢において歯槽骨、セメント質の石灰化亢進が見られた。又、膝関節半月板の異所性骨化が高頻度に認められた。以上から、Integrin α7は、靭帯細胞において、機械的刺激依存的なFAKのリン酸化を抑える事により骨芽細胞様細胞への分化を抑制し、靭帯骨化を阻害する重要な因子であると考えられた。 (2)骨芽細胞における石灰化促進機構の解析 申請者らは、機械的刺激で発現が増加する遺伝子群をDNAアレイ法にて検索し、その中で現在有力な候補である遺伝子群(small GTPase活性化因子、ユビキチン関連酵素など)について以下の解析を行った。(a)取得遺伝子を分化時期特異的に発現させるベクターに組み込み、その安定導入骨芽細胞株を単離した。(b)ドミナントネガティブ体やsiRNAを用いて目的遺伝子の発現を骨芽細胞内で抑制させた。18年度はこれらの石灰化能を解析する。 (3)靭帯線維芽細胞特異的遺伝子の単離と機能解析 DNAアレイ法によりL2細胞特異的遺伝子の取得を試みた。Integrin α7は、骨芽細胞に発現せず、L2細胞に発現していた。しかし、未だ靭帯線維芽細胞特異的遺伝子の単離には至っていない。以後も遺伝子の単離を継続する。
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