研究概要 |
エナメル芽細胞の分化機構について次の2つのアプローチを行った。すなわち(1)エナメル質形成不全ラット(AMI)由来ゲノム上で変異を持つ、ある既知遺伝子Xとエナメル芽細胞分化機構との関連の解明、(2)アメロゲニン遺伝子を分化マーカーとしたエナメル芽細胞の分化誘導システムの構築を、当教室で樹立した正常ラット由来エナメル芽細胞クローン(SRE-G5)を用いて検討した。 (1)ではXの正常型と変異型タンパク質を区別するペプチド抗体を作成し、ラット下顎領域での正常なX発現部位を免疫組織染色にて検討し、エナメル芽細胞と一部の象牙芽細胞の核に局在することを確認した。さらに正常型および変異型XのTag付き発現ベクターを構築し、SRE-G5に導入して恒常発現クローンを樹立した。正常型X発現クローンの全RNAを用いてマイクロアレイ解析を行ったところ全20,450遺伝子のうち、X発現株で448遺伝子の発現レベルが上昇し,500遺伝子の発現レベルが低下した。このアレイの結果からフォリスタチン遺伝子の発現レベル低下に注目した。そこでフォリスタチン遺伝子の転写開始点から3.5kb上流のプロモーター領域を用いてX発現株でのルシフェラーゼ解析を行ったところ、Xによる転写調節は認められなかった。従って他の領域(イントロンや3'側領域)による転写調節機構や間接的な制御機構の可能性が示唆された。現在、遺伝子XのDNA結合配列と標的分子を同定するため,EMSA法およびChIP法により解析中である。 (2)では分化誘導に関わると想定される種々の誘導剤をSRE-G5に作用させ、アメロゲニンの発現誘導を検討した。その結果,MAPKの活性化を誘導するアニソマイシンまたはサリチル酸により安定したアメロゲニンの発現誘導系を確立した。特にストレス応答性のp38やJNKがリン酸化されることからさらに詳細な検討を行っている。
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