歯の再生は歯科医学研究者の永遠のテーマであるが、現状では適切な形態を維持した歯の再生はまだ行われていない。この目標を達成する為には、歯の形成に関わる分子機能の解明が不可欠であると考えられる。多種多様な分子が、歯の発生過程に重要であると考えられるが、我々はその中でも細胞外マトリックスに着目し解析を進めてきた。 アメロブラスチンは、歯のエナメル質形成に必須の分子であり、本分子の欠損マウスでは、エナメル質を全く欠き、加齢とともに歯原性腫瘍細胞を形成する。これは、アメロブラスチンが、エナメル芽細胞の増殖を停止させるという機能を有していることを示唆する結果であった。アメロブラスチンによる細胞シグナル伝達機構を明らかにする目的で、その受容体同定と、細胞接着活性を有する領域決定を試みた結果、アメロブラスチンはC末端側に3カ所のヘパリン結合領域と、1カ所のカルシウム結合領域を有し、これら領域が細胞の接着や分化誘導で重要であることを発見した。さらに、この領域に結合するエナメル芽細胞側の受容体として、ある種のヘパラン硫酸プロテオグリカンを同定した。以上の結果から、アメロブラスチンは特異的な受容体を介して、エナメル芽細胞の分化誘導およびその維持に重要であるとが示唆された。 一方、歯の発生初期過程においては、基底膜分子の一つであるラミニンが重要であることを見出した。歯の上皮細胞に特異的に発現するラミニンα5を欠損したマウスでは、この細胞極性の決定が阻害され、歯胚自体が小さく歯の咬頭を有しない。具体的には、咬頭の形成に重要と考えられるエナメルノットの機能異常を認め、歯胚組織の細胞増殖が低下していること見出した。この分子メカニズムは、ラミニンα5はインテグリンα6β4を介して、PI3K-Rac/cdc42を活性化し、細胞の増殖や極性決定を行っていることが明らかとなった。
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