本年度は、以下の各項目に取り組んだ。 1.前年度開発したコストモデルに対する遅延評価の組み込みについて検討した。 遅延評価戦略が生かされる可能性のある構文として、式の部分的な結果から全体の結果を決定出来る論理演算子および限量式(some/every)があり、for式と限量式のカスケードに対する結合規則に基づく等価変換規則が、実質遅延評価のエミュレーションになっていることが分かった。則ち、変換規則適用前の式の遅延評価コストは、変換規則適用後の式に対して、開発済コストモデルを適用したものと等しくなっている。この結果は国際シンポジウムSACでポスター発表している。 2.XQuery組み込み構文に内在する、より複雑な再帰演算の抽出の検討を行った。 構文や組み込み関数からの再帰形式の抽出は、特定の処理を集合やリストなどのコレクションの各要素に対してひとしく適用するmap演算の抽出につながる。map演算は要素毎の演算を独立に行うことが出来るため、並列処理との親和性に富む。関連する分野の研究者との打ち合わせでは、並列性への抽出にもつながるプログラム変換手法に関する示唆を賜ることが出来た。 3.処理系による副作用の抽出/分離に関する視点からの検討を行った。 言語の対象とするデータの構成要素を、木の親子方向と兄弟方向の二つの成分に分けて考えることにより、データモデル中の再構築に相当する副作用を親子方向の成分のみに限定することが出来ることを示すことが出来た。また兄弟方向については一つの構文要素の演算子としての側面とコンストラクタとしての側面を持つことが分かり、代数的性質を明らかにする上での手がかりとすることが出来た。代数的性質の明確化は並列処理への重要な道筋の一部となる。
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