本年度は、TCPプロトコルにおける到達確認応答機構の理論的解析に取り組み、TCPのack発行回数と通信品質(遅延)との関係を評価した。従来の理論モデルではackパケットが送信者のパケット送信タイミングに与える影響を考慮していなかったのに対し、本研究ではTCPのスライディングウィンドウ機構を考慮したモデルを提案した。これにより、到達確認応答アルゴリズムの性能を送信者と受信者の相互作用まで反映して評価可能になった。このモデルにより、TCPのトラフィックレートが高い時はdelayed ackで長時間待つのは得策ではないという解析結果を得た。今後はこの知見から、TCPトラフィックの量に合わせてdelayed ackの待ち時間を適応的に変えるアルゴリズムの構築を目指す。なお、本成果は情報処理学会アルゴリズム研究会にて発表した。 次に、昨年度から継続して、TCP輻輳制御理論を利用したルータでのアクティブキュー管理機構(AQM)の研究を進めた。提案AQMアルゴリズムでは、ルータにTCPコネクション群のRTT平均値を推定する機構を組み込み、データ送出レートを下げるべきTCPコネクションの割合を推定RTT値とTCP輻輳制御理論から算出し、これから個々のパケットに対するマーキング確率を決定する。今年度はns-2でのシミュレーションシナリオを増やして評価し、提案手法が ・REMよりもトラフィック変動に対して強く、短時間でキュー長を安定状態に戻す。 ・REDよりもパケット再送量を減らせる。 という評価結果を得た。この成果は国際会議IEEE Conference on Local Computer Networksにおいて採択論文となった。 また、モバイルアドホックネットワークにおける通信品質保証に着目し、優先制御ベースのQoSルーティング方式の検討を行った。従来のQoSルーティングは資源予約ベースの方式が大半であるが、アドホックネットワークでHardQoSを目指すのは現実的ではないとの着想の下、本研究では高優先度コネクションが低優先度コネクションよりも相対的にスループットが高くなることを目指した。特に、通信品質保証を必要とするマルチメディア通信の多くが双方向通信であることに着目し、高優先度コネクションは上りパスと下りパスを別々にして、自己干渉を減らすことで低優先度トラフィックよりも優先されるルーティング方式を検討した。フローレベルシミュレーションで提案方式の有効性を確認し、電子情報通信学会情報ネットワーク研究会で成果発表した。今後はパケットレベルのシミュレーションを進める。
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