無線通信機能を備えた移動コンピュータのみから構成されるアドホックネットワークを実現するための諸技術がこれまでにも検討されてきたが、ここでは、以下の仮定に基づいている。 (1)コンピュータの移動速度は低速である (2)移動コンピュータは均一に分布する (3)移動コンピュータは他の移動コンピュータと常時通信可能である (4)すべてのコンピュータは自律的に移動する しかし、現実のネットワークシステムでは、上記の仮定は必ずしも満足されない。 本研究では、平成17年度には、以下の問題について検討を行った。 (1)移動するアドホックネットワーク間の間欠的通信を支援する基盤技術の確立 各コンピュータの移動は完全に独立ではなく、ネットワークアプリケーションを実行するコンピュータの移動は相互に関係がある。その関係のひとつとして、複数のコンピュータが相互にマルチホップ通信可能なグループ(移動コンピュータ群)を構成して移動するものがある。ここで異なる群に属する移動コンピュータ間の通信は、それぞれの群のいずれかの移動コンピュータが通信可能であれば、マルチホップ配送によって可能となるが、均一に分布し、自律的に移動するコンピュータを対象としたアドホックルーティングプロトコル、データ配送プロトコルでは、通信オーバヘッドが大きく、エンドエンド帯域幅を十分に得ることはできない。本研究では、群を構成して移動することを考慮したルーティングプロトコルCC-WSCP(Cluster-to-Cluster Wireless Sporadic Communication Protocol)を設計した。また、シミュレーション実験により、従来のアドホックルーティングプロトコルであるDSDVと比較し、十分に高い性能が得られていることを確認した。 (2)間欠的通信技術に基づく通信サービスの実現 移動コンピュータが他のコンピュータと常時接続できるとは限らず、近隣のコンピュータや基地局と限られた時間にのみ通信可能となる間欠的通信サービスのひとつとして、基地局から移動コンピュータに対する放送型サービスについて検討した。移動コンピュータと基地局との限られた通信時間により移動コンピュータのユーザに対して効果的な放送を行なうためには、ユーザにとってより価値の高い情報を提供することが必要となる。この放送コンテンツを決定するファクターとして、情報を得たコンピュータが将来の時刻、位置によって得られる価値を考え、これにコンピュータの分布特性と移動特性(位置変化の条件付確率分布)を加味することによって、現在、各コンテンツを放送することによって、移動コンピュータ群が獲得する利得の期待値を評価することによって、放送スケジュールを作成する手法を確立した。スケジュール作成には、数種類のヒューリスティックを用い、その有効性を実験によって検証した。
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