研究概要 |
絵画や工芸品,建築物といった(有形)文化財の多くは,長期に渡る直射日光や湿気をはじめとする環境的要因によって既に劣化しており,色彩や形状は損傷した状態で保存されている.本研究は,こうした重要な文化財を保存しようとするデジタルアーカイブの研究の拡張として,可動式プロジェクタを用いて色修復に必要な投影光を文化財に照射し,劣化前の状態を仮想的に再現することを目的としている.提案する色修復システムは,搬送ロボットの上にプロジェクタとカメラを設置し,コンピュータで自動算出した修復像を適切な位置から照射する.このとき,液晶ミラー(液晶ディスプレイのバックライトを取り除いた透過型の液晶パネル)をハーフミラーとして文化財の全方位に設置することで,プロジェクト光の照射率を制御する.この方式は,従来手法で問題とされる分光反射率の低い実物体に対してもプロジェクタの効果を十分に発揮することができ,利用者の要望に忠実な色再現を適切な場所から実現することができる. 本年度は,この提案システムを構築するために以下の項目を実施した. (1)グレイコードパターン法を用いて,実空間および搬送ロボットに設置したカメラとプロジェクタの幾何学的なキャリブレーション(3次元形状と座標関係の取得)を施行した. (2)色修復に必要なプロジェクタの投影像と液晶ミラーのグレイ画像の算出方法を求めた.この手法は,まず,6面の各液晶ミラーに16階調のグレイ色を表示し,次に実物体にサンプル光を投影した結果をプロジェクタと同軸に設置したカメラで撮像し,プロジェクタとビデオカメラの特性および色の見えについて求める.この結果と目的色となる修復色からプロジェクタの投影画像と液晶ミラー画像を算出する. (3)上記の手法を用いて色修復のための試作システムを構築した. 次年度は,試作システムにユーザの位置同定と搬送ロボットの通信制御,効果的なユーザインタフェースを実装し,更に,修正色の再現性および利用者によるシステムの評価を行う予定である.
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