本研究は、複数の凸制約を組み合わせることにより適応的にシステム同定を行うアルゴリズムを用いて、音声圧縮の前処理のための線形予測器を高度化するものである。 高雑音下で効率的な適応システム同定を行うためには、諸特性を悪化させることなくアルゴリズムの収束速度を向上させることが重要となる。本研究で用いる、複数の凸制約を組み合わせ外近似への射影を用いて適応的にシステム同定を行うアルゴリズムは、雑音のある状態であっても、真のシステムを必ず充足可能解として含むよう定式化することが可能であり、元来収束性や耐雑音性に優れている。 前年度までの結果により同アルゴリズムを用い線形予測器のシステムの同定を行う場合に必要となる、2次不等式で表される凸制約集合の狭い外近似の構成法を確立し、収束速度を決定付ける主要な要素であるステップサイズを見かけ上最大2倍に拡大した場合の理論的な動作保証を得ているが、研究2年目のなる本年度は、実験および実装上の課題を検討した。特に今年度は10MIPS程度のマイクロコントローラ上で効率や収束性を損なうこと無く実装するための課題について検討を行った。 本研究の背景には、組み込み機器における、情報・通信機器の小型化、無線ネットワークの発展に伴う、音声信号処理環境の多様化がある。携帯機器における高度な信号処理が必要となる一方で、携帯通信機器の軽量化、多機能化により、音声信号処理に割り当てることが出来るリソースは依然として厳しく制限されている。携帯通信端末の、ソフトウエアの規模が増大する中で、新しい信号処理アルゴリズムを他機能と共存し搭載する困難を解消するため、本年度はまた、組込みソフトウエアの開発プロセスを対象とし、信号処理アルゴリズムをプロセスの中に位置づける方法について検討を行った。
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